ここ2週間は、サービスデザインの課題のため現場にでていることが多いです。新しい環境を観察できるので、現場は面白いです。今回の現場は主に図書館です。図書館のサービスを観察し、サービスの改善あるいは新しいサービスを提案するというもの。
デンマークに来てから、コペンハーゲン市内の図書館に何度か訪れたことはありましたが、ここまで頻繁に通い、いろいろとプロトタイピングを行い、ゲリラインタビューを行っていると、より深く図書館、そして図書館を成り立たせているデンマーク社会の実態も見えてくるような気がします。
サービスデザインのリサーチはどちらかというと難航しているのですが、それはさておき図書館に通うなかで感じたことなどを書いてみます。
私が通っているのは、コペンハーゲン市の西側にあるValbyという地域の図書館です。こじんまりとしたこの図書館は、ちょっとした前庭付きの古い建物を改築した造りなのもあって、雰囲気の良いザ・地元の図書館です。
一番良いなと思ったのは、貸し出しはほぼ自動化されてて、それ以外の探したい本だとかそういうことを相談できる図書館員に接しやすいようなつくりになっているところです。
入り口のところにカウンターがあるのですが、それは貸し出しのカウンターではなく、行政書類の申請ができるようにと数年前からはじまった市民サービスのカウンターです。
貸し出しはほぼ自動化された機械のみ。図書館員は小さなデスクにいることが多く、気軽に相談できます。
夏休み中の10歳くらいの女の子が一人で本を探しにきて、図書館員(子ども専門)と一緒にじっくり本を探している様子は微笑ましく、ぜいたくで有意義な税金の使い方だなと感慨深かったです。私自分は、幼い頃地元の図書館に行く習慣はなかったのですが、デンマーク人の友人に聴くと、すべからく図書館は自分の庭みたいなところだったと話してくれます。
きくところによると、数年前からコペンハーゲン市の図書館は子ども向けのサービスに力を入れているらしく、親子で楽しむ場所も小学生がくつろげる場所も大人と同じぐらいの面積をぜいたくにつかって用意してあります。午後から夕方にかけて、絵本や本を選んだり、読み聞かせをしている親子や家族がぽつぽつと訪れてきます。お母さん同士の出会いの場でもあるようです。
そして、最近始まった驚きのイニシアティブが8-22です。8-22とは、8時から22時まで図書館をオープンするというもの。もともとの平日の開館時間は10時から19時です。では、これまでオープンしていなかった時間をどうするのかというと、職員は家に帰ってしまい、市民に勝手に使っててもらうのです。
この時間(Unmanned Hourと英語で言われています)に図書館に入りたい人は、元々図書館カードを兼ねているCPRカード(デンマーク在住者すべてが持つ市民カード、健康保険証みたいなものです)で暗証番号を登録するだけです。その他は、監視カメラが作動しているだけで、使いたい放題。22時近くになるとアナウンスが流れ、中に残っている人がいると警報が鳴るというシステムです。
今年からはじまった試みで、今後どうなっていくのかわかりませんが、3割を超える利用者が時間外利用しているユーザーだということです。
なんという信頼関係・・・・・・。さすがにこの話にはびっくりしました。利用者の方に話をしても「ほんとにデンマーク的だよね」とはにかみながらも誇らしげです。
18時とか19時に閉まってしまうとなると、仕事帰りに図書館に寄るのは難しいラインですが、22時なら考慮することができます。Wifiももちろん飛んでいるので、ちょっとした仕事を片付けることもできます。実際、夜間はパソコンを使いに来る人が多い印象です。パソコンが家にない人でも、ここまでオープンにしてくれたらいつでも来て使うことができます。毎日メールやFacebookをチェックしにくるという人にも話を聴きました。この試みは社会福祉的にもなんらかの良い影響があるように思います。
また、市内はもちろん国内ならどこの図書館からも本を取り寄せられるというのも魅力的です。この図書館の場合、半数以上の貸し出しが外から来た本だというので、ネットで検索して予約して取りにいくという利用者が多いようです。実際、夕方になると、本をピックアップしに来るひとが増えてきます。取り寄せられた本は、日付別に並べられているので、そこまで自分で取りに行き、自動貸出機で借り出すだけです。滞在時間数分で出て行くひとも少なくありません。
貸し出しの効率化、図書館員の充実、図書館解放などにちょっとした工夫が見られる以外、この図書館は飾り気のないシンプルな図書館です。しかし、何度も訪れて観察するにつれて、素朴だけどビジョンを持って経営されているように感じます。
さて、サービスデザインのセッションはあと2週間です。どんな提案ができるのか、利用者の皆さんや図書館員の皆さんの協力も得て、なんとか良いコンセプトを生み出したいと思います。
コメント
コメントを投稿