先日(といっても、もう2週間以上も前に)参加したレクチャーで語られた公共セクターにおけるエビデンスの話が面白かったので紹介します。
話を聞きに言ったのは、NESTAのディレクター、Geoff Mulgan氏。NESTAは、人々や組織の良いアイデアをかたちにするのをサポートするイギリスの独立系シンクタンクです。
私がGeoff Mulgan氏について初めて知ったのは、数年前。Australian Center for Social Innovationというオーストラリアのソーシャルイノベーションセンターのウェブサイトをみていた時でした。この団体の立ち上げに、Mulgan氏が関わっていました。そこから彼の経歴をみて、NESTAだけではなく、Young Foundationのディレクター、DEMOSというシンクタンクの立ち上げ、ナンバー10(イギリスの政治の中枢)のアドバイザー、Studio School、Action for Happinessなど、さまざまな変革を起こしてきた人だということがわかりました。中でもStudio SchoolのTED talkはインパクトがありました。それから、いつか会ってみたいと思う一人になっていました。
その彼がコペンハーゲンのMindLabでモーニングレクチャーを行う。しかも無料。さらに、コーヒーとクロワッサン付きということで参加しないわけにはいきません。
レクチャーは、朝の8時半から。MindLabには、朝からにも関わらず役所関係の方、NPO/NGO関係の方、アカデミズムの方など、50名ほどのひとたちが集っていました。レクチャーのタイトルは、"Policy into practice: from projects to systems"。実践的な政策、意義のある政策を構想し、実践していくために必要なエビデンス(根拠)についての話が中心でした。
Mulgan氏はビデオでみていたのと同じ柔和な感じのひとで、話も聴きやすかったです。私は最前列右端に席をとりました。レクチャー開始までに、クロワッサンとコーヒーをいただきます(美味しい!)。レクチャーがはじまってみると隣は、MindLabのディレクターのBason氏でした。iPadでメモりつつ、Twitterでちょくちょく発信しています。
Evidence
前述したように話の中心は、公共セクターの仕事のエビデンス(根拠)の話でした。公共セクターの仕事にどんな意義があるのか。ビジネスであれば、利益の追求というとりあえずわかりやすい目標がありますが、公共セクターの仕事の価値はそれだけではありません。それが、意外とわかりにくいし、伝わりにくかったりします。
この問題のもうひとつの側面は、公共セクターのなかでお互いに良い仕事が見えにくくなっているというところだそうです。根拠がみえなければ、どこの誰の、どんな仕事が良いのかもわからないからです。
ならば、エビデンスをはっきりさせようじゃないかということで立ち上げたのが、Alliance for Useful Evidenceです。
社会政策や実践における根拠を集めて、多くの人たちで共有できるようにしようというシンプルな発想です。
では、エビデンスとは何か。どこに根拠を求めるのかという問題がでてきます。それこそ、EBM(Evidence Based Medicin)などのエビデンスは、かっちりしたサイエンティフィックなものですが、ここでのエビデンスはもっとざっくりしたもののようです。エビデンスをはかる指標として、以下の5段階が紹介されていました。(おそらく、リサーチを重ねた上で編み出したのだと思います)
の5段階です。これは、公共セクターにかぎらず、どんなプロジェクトにあてはめて考えることができそうです。自分がこれまで関わってきたプロジェクトを振り返ってみても、1と2でまごついたり、3や4であやふやになったりです。
彼の次なるステップは、こうした試みについて、多くの人と話し合い、実験をし、フィードバックがすぐに得られるような環境をつくっていくことだそうです。
もうさっそく動いているようで、この文章を書いている時に見つけたのですが、イギリスでは、この春から、エビデンスセンターなるものが設立されているようです。(Mulgan氏が話している映像)
また、システムイノベーションの考え方は、公共セクターに限った話でもなく、プロダクトが売れて、かつ良い、良い変革をもたらし、システムのイノベーションにつながっていくビジネスをサポートするという話にもつながってきます。ビジネスセクターとも話し合い、仕掛けをしていっているようです。
Systemic Innovation
システムイノベーションは、Mulgan氏の最近のキーワードです。まさにそのままのタイトルのレポートがNESTAからでたのが今年のはじめ。NESTAのウェブサイトでも、議論が続いています。
システムの変革とは、インターネットの登場しかり、テレビの登場しかり、自動車の登場しかり、大きな社会変革は、人々の行動からインフラまでシステムすべてを変えてしまうことです。社会イノベーションにおいても、プロジェクトや地域に限ったことではなく、システムの変革を起こしていけたら良いのではないかという考え方のようです。
たとえば、肥満について。ある意味、これは食べ物をあまねく多くの人に届けるという目的が過剰に到達された結果でもあります。しかし、別の意味では、多くのひとの健康が損なわれているという結果をもたらしています。食品業界だけではなく、食習慣だったり、社会システムだったり、いろんなことがかかわって起きている問題です。肥満にかぎらず、多くの社会的課題が複雑に絡み合ったシステムのなかで生まれています。
逆に、これまで人々がシステムを良い方向に変えてきた歴史もたくさんあります(前述のレポートにも事例がいくつかあげられています)。そうした事例に学びながら、人々がシステムを変えていける仕組みをつくっていくこと。エビデンスを持った社会変革を起こりやすくすること。これが、Mulgan氏やNESTAの目標であり、彼らを駆動しているエネルギーなのかなと感じました。
他にもHealth Knowledge Commonsの話やStudio Schoolの話やEffortless Automated Feedback Systemの話などもあり、1時間半の充実した内容でした。
レクチャーの最後に、Fatalism(宿命論)について話していたのも印象的に残りました。つまり、人々が可能性についての信頼を失っている。未来をつくれないと思い込んでしまっているように感じると。
数々の変革を巻き起こしてきた(そして、今も巻き起こしている)彼が戦っているのは、まさにそうした社会の雰囲気なのかもしれません。
しかし、どこまでもひるまない彼は、この秋に、FUTUREFEST: Shaping things to come というカンファレンスも企画しているようです。最後の締めが、このカンファレンスの紹介でした。どこまで、仕込みと実践をしている人なんだと驚きです。
まさに、力をもらいました。会いにいってよかったです。このレクチャーの企画をしてくれた、コペンハーゲン大学ビジネススクール(CBS)の PUBLIC-PRIVATE PLATFORMやMindLabにも感謝です。
MindLabのサイトにもMulgan氏のインタビュー映像がありました。ここでもエビデンスについて語っています。エビデンスは、過去を問うのではなく、未来へむけて文化的な実験をするためのものだと。Vimeoのリンクはこちらです。
公共セクターの悩みが軽くなって、建設的な未来をつくる土台となる「エビデンス」を共有する仕組みづくり。Mulgan氏やNESTAが牽引するイノベーション政策にこれからも注目です。
Mulgan氏の近著
▼The Locust and the Bee: Predators and Creators in Capitalism's Future
話を聞きに言ったのは、NESTAのディレクター、Geoff Mulgan氏。NESTAは、人々や組織の良いアイデアをかたちにするのをサポートするイギリスの独立系シンクタンクです。
"Nesta is an independent charity with a mission to help people and organisations bring great ideas to life."
私がGeoff Mulgan氏について初めて知ったのは、数年前。Australian Center for Social Innovationというオーストラリアのソーシャルイノベーションセンターのウェブサイトをみていた時でした。この団体の立ち上げに、Mulgan氏が関わっていました。そこから彼の経歴をみて、NESTAだけではなく、Young Foundationのディレクター、DEMOSというシンクタンクの立ち上げ、ナンバー10(イギリスの政治の中枢)のアドバイザー、Studio School、Action for Happinessなど、さまざまな変革を起こしてきた人だということがわかりました。中でもStudio SchoolのTED talkはインパクトがありました。それから、いつか会ってみたいと思う一人になっていました。
その彼がコペンハーゲンのMindLabでモーニングレクチャーを行う。しかも無料。さらに、コーヒーとクロワッサン付きということで参加しないわけにはいきません。
レクチャーは、朝の8時半から。MindLabには、朝からにも関わらず役所関係の方、NPO/NGO関係の方、アカデミズムの方など、50名ほどのひとたちが集っていました。レクチャーのタイトルは、"Policy into practice: from projects to systems"。実践的な政策、意義のある政策を構想し、実践していくために必要なエビデンス(根拠)についての話が中心でした。
Mulgan氏はビデオでみていたのと同じ柔和な感じのひとで、話も聴きやすかったです。私は最前列右端に席をとりました。レクチャー開始までに、クロワッサンとコーヒーをいただきます(美味しい!)。レクチャーがはじまってみると隣は、MindLabのディレクターのBason氏でした。iPadでメモりつつ、Twitterでちょくちょく発信しています。
Evidence
前述したように話の中心は、公共セクターの仕事のエビデンス(根拠)の話でした。公共セクターの仕事にどんな意義があるのか。ビジネスであれば、利益の追求というとりあえずわかりやすい目標がありますが、公共セクターの仕事の価値はそれだけではありません。それが、意外とわかりにくいし、伝わりにくかったりします。
この問題のもうひとつの側面は、公共セクターのなかでお互いに良い仕事が見えにくくなっているというところだそうです。根拠がみえなければ、どこの誰の、どんな仕事が良いのかもわからないからです。
ならば、エビデンスをはっきりさせようじゃないかということで立ち上げたのが、Alliance for Useful Evidenceです。
The Alliance for Useful Evidence champions the use of evidence in social policy and practice. We are an open–access network of individuals from across government, universities, charities, business and local authorities in the UK and internationally.
社会政策や実践における根拠を集めて、多くの人たちで共有できるようにしようというシンプルな発想です。
では、エビデンスとは何か。どこに根拠を求めるのかという問題がでてきます。それこそ、EBM(Evidence Based Medicin)などのエビデンスは、かっちりしたサイエンティフィックなものですが、ここでのエビデンスはもっとざっくりしたもののようです。エビデンスをはかる指標として、以下の5段階が紹介されていました。(おそらく、リサーチを重ねた上で編み出したのだと思います)
- Level1 Describe
- Level2 Data
- Level3 Causality
- Level4 Evaluation
- Level5 Systems
の5段階です。これは、公共セクターにかぎらず、どんなプロジェクトにあてはめて考えることができそうです。自分がこれまで関わってきたプロジェクトを振り返ってみても、1と2でまごついたり、3や4であやふやになったりです。
彼の次なるステップは、こうした試みについて、多くの人と話し合い、実験をし、フィードバックがすぐに得られるような環境をつくっていくことだそうです。
もうさっそく動いているようで、この文章を書いている時に見つけたのですが、イギリスでは、この春から、エビデンスセンターなるものが設立されているようです。(Mulgan氏が話している映像)
また、システムイノベーションの考え方は、公共セクターに限った話でもなく、プロダクトが売れて、かつ良い、良い変革をもたらし、システムのイノベーションにつながっていくビジネスをサポートするという話にもつながってきます。ビジネスセクターとも話し合い、仕掛けをしていっているようです。
Systemic Innovation
システムイノベーションは、Mulgan氏の最近のキーワードです。まさにそのままのタイトルのレポートがNESTAからでたのが今年のはじめ。NESTAのウェブサイトでも、議論が続いています。
システムの変革とは、インターネットの登場しかり、テレビの登場しかり、自動車の登場しかり、大きな社会変革は、人々の行動からインフラまでシステムすべてを変えてしまうことです。社会イノベーションにおいても、プロジェクトや地域に限ったことではなく、システムの変革を起こしていけたら良いのではないかという考え方のようです。
たとえば、肥満について。ある意味、これは食べ物をあまねく多くの人に届けるという目的が過剰に到達された結果でもあります。しかし、別の意味では、多くのひとの健康が損なわれているという結果をもたらしています。食品業界だけではなく、食習慣だったり、社会システムだったり、いろんなことがかかわって起きている問題です。肥満にかぎらず、多くの社会的課題が複雑に絡み合ったシステムのなかで生まれています。
逆に、これまで人々がシステムを良い方向に変えてきた歴史もたくさんあります(前述のレポートにも事例がいくつかあげられています)。そうした事例に学びながら、人々がシステムを変えていける仕組みをつくっていくこと。エビデンスを持った社会変革を起こりやすくすること。これが、Mulgan氏やNESTAの目標であり、彼らを駆動しているエネルギーなのかなと感じました。
他にもHealth Knowledge Commonsの話やStudio Schoolの話やEffortless Automated Feedback Systemの話などもあり、1時間半の充実した内容でした。
レクチャーの最後に、Fatalism(宿命論)について話していたのも印象的に残りました。つまり、人々が可能性についての信頼を失っている。未来をつくれないと思い込んでしまっているように感じると。
数々の変革を巻き起こしてきた(そして、今も巻き起こしている)彼が戦っているのは、まさにそうした社会の雰囲気なのかもしれません。
しかし、どこまでもひるまない彼は、この秋に、FUTUREFEST: Shaping things to come というカンファレンスも企画しているようです。最後の締めが、このカンファレンスの紹介でした。どこまで、仕込みと実践をしている人なんだと驚きです。
まさに、力をもらいました。会いにいってよかったです。このレクチャーの企画をしてくれた、コペンハーゲン大学ビジネススクール(CBS)の PUBLIC-PRIVATE PLATFORMやMindLabにも感謝です。
MindLabのサイトにもMulgan氏のインタビュー映像がありました。ここでもエビデンスについて語っています。エビデンスは、過去を問うのではなく、未来へむけて文化的な実験をするためのものだと。Vimeoのリンクはこちらです。
公共セクターの悩みが軽くなって、建設的な未来をつくる土台となる「エビデンス」を共有する仕組みづくり。Mulgan氏やNESTAが牽引するイノベーション政策にこれからも注目です。
Mulgan氏の近著
▼The Locust and the Bee: Predators and Creators in Capitalism's Future
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